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houza logo住職の法話

  1. ふすま越しの念仏
  2. 生きる ~詩の世界~
  3. 仏さまになるんやで
  4. ペットの死を通して
  5. 素敵に年を重ねる
  6. 応報大悲弘誓恩
  7. 仏さまにまもられて

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中川大城 住職

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法語一献

月刊誌『御堂さん』2023年5月号掲載
中川 大城(なかがわ おおき)

法語
 憶念弥陀仏本願 自然即時入必定
 唯能常称如来号 応報大悲弘誓恩 『正信偈』より

お寺の屋根に向かって

高田川の桜写真 私は奈良県香芝市にある無量寺というお寺をお預かりしています。近隣には田畑があり、お寺の近所にお住いのおばあさんが玉ねぎや大根、ほうれん草など、野菜を届けてくださいます。一生懸命に育てられた野菜をよく持ってきてくださるのです。

ある日、お寺の石段の下に置いてある野菜を見つけました。「おばあさんなら裏口まで届けてくださるのに、どなたかな?」と考えましたが、後でおばあさんだとわかりました。いよいよ野菜を持って石段を上がるのがつらくなったとのことでした。それからは、段差のないガレージに野菜を置いてくださるようになりました。

しばらくして袋入りの野菜を運ぶことも難しくなったと聞きました。それ以来、お寺へお越しになることがめっきり減ってしまいました。ある日、買い物に使われるシルバーカーを押しながら、お寺のそばを歩くおばあさんを見かけました。シルバーカーは椅子にもなるんですね。お疲れになったのでしょう。そこに腰かけると、ホッと一息ついたように休憩されていました。私が声をかけようと近づいたとき「なんまんだぶつ、なんまんだぶつ」と手を合わせてお念仏をはじめられました。おばあさんが休憩されたその場所からは、ちょうどお寺の屋根が見えました。おばあさんはお寺のご本尊に向かって手を合わせていらっしゃったんです。なかなか本堂にのぼることはできないけれども、せめてこの場所から手を合わせたい、そんな気持ちだったのでしょう。それからも、同じ場所でお念仏されているおばあさんを何度も見かけました。

別れの中にあるぬくもり

おばあさんはお連れ合いさんを送り、息子さんも先に送られました。別離の悲しみの中でみ教えをいただかれた方です。たとえ称える時や称える場所は違っていても、先立った方の口からは、それぞれの心に届いた六字のみ名が「なんまんだぶつ、なんまんだぶつ」と出てくださっていた。阿弥陀さまの救いが、それぞれにちゃんと届いていて、みんな仏さまになられたということをよろこんでいらっしゃったのです。おばあさんが口にかけるお念仏も、何度もお寺に届けられた野菜も、すべては阿弥陀さまの大悲のお心、かけられたご恩への感謝だったと気づかされました。

南無阿弥陀仏のおはたらきが、おばあさんを通して私にもあたたかく伝わってきました。阿弥陀さまのご本願に出遇われた人は、そのよろこびを自然と周囲の人に伝えていかれるのですね。ただ念仏一筋に生きられた親鸞聖人、その生きざまとお心が、長い時を経て、こうして私のところまでつながってきたことを感じます。親鸞聖人御誕生850年、そして浄土真宗を開いてくださって800年の機縁に、ただただありがたく、お念仏を申すばかりです。